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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)599号 判決 1953年5月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人桜井紀の上告趣意第一点について。

原審の是認した第一審判決の確定した事実によれば被告人三浦秀清外一名は昭和二五年一月二七日名古屋市中区南外堀町愛知県庁内労働部職業安定課で労働部長長谷川寛三等に対し名古屋中公共職業安定所笹島労働出張所に登録している日雇労働者を代表してその日就職の斡旋を受け得なかった労働者のために就職の斡旋を要求交渉をしたが同日午後六時頃に至り遂に同部長からその要求に応じられない旨言明され、退去を求められたがなお執拗且つ頑強にその要求を続けその後長谷川部長等から再三退去を要求されたにも拘わらず同日午後八時三〇分頃右職業安定課室で逮捕されるまで立去らなかったというのである。そこで、憲法二八条は使用者対被使用者すなわち勤労者というような関係に立つものの間において経済上の弱者である勤労者のために団結権ないし団体行動権を保障しもって適正な労働条件の維持改善を計らしめようとしたものに外ならないと解すべきことは当裁判所大法廷の判例とするところである。(判例集三巻六号七七二頁以下参照)しかるところ、職業安定法四条二号によれば政府は失業者に対し職業に就く機会を与えるため必要な政策を樹立しその実施に努めなければならないこと勿論であるが、政府ないし愛知県が失業者に対し就職の斡旋をすることは使用者対勤労者というような関係に立つものではないのであるから本件被告人等の所為が憲法第二八条の保障する団結権ないし団体行動権の行使に該当しないことは多言を要しないところである。それ故論旨は採用に値しない。

同第二点について。

所論は違憲をいうけれど事実誤認を前提とするものであり刑訴四〇五条の上告理由に該当しない。(前掲事実関係によれば緊急避難を認むべき余地はない。)また記録を精査しても本件では同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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